勇者ライディーンでの路線変更

以前「シャアはなぜ仮面をつけているのか?」で触れた「勇者ライディーン」ついて書いてみようと思います。

この作品は「マジンガーZ」のヒットによりスーパーロボットアニメの人気が高まっていた関係で制作された作品の一つです。

ただ「マジンガーZ」さらに当時人気のあった「ゲッターロボ」とはかなり違った作品でした。

まず主役ロボットのライディーンですが、これは現代の科学力で造られたものではありません。

古代文明ムートロンの科学力で造られたという設定です。

当然ですが現代の科学力では修理、メンテナンスもできません。ライディーンは普段は人面岩に格納されているのですが、人面岩に格納中に自動的に古代文明ムートロンの科学力で勝手に修理、メンテナンス、武器の補給をするという設定でした。

さらに誰でも操縦できるものでもありません。搭乗者はライディーンが選んだ者しか乗ることはできません。それでライディーンが選んだ搭乗者が主人公のひびき洸(あきら)です。

これだけではありません。ライディーンは空を飛ぶための装置も装備されていません。それにも関わらず平気で空を飛んでいます。さらには空中静止もなんなくできていました。

「マジンガーZ」では空を飛ぶためにジェットスクランダーが必要でした。「グレートマジンガー」もスクランブルダッシュが存在しました。「ゲッターロボ」ではゲッター1はマッハウイングで空を飛んでいました。

空を飛ぶための装置も存在しないで空を飛んだ最初の作品ではないでしょうか?

これは実写作品も含めてです。

実写作品では「ジャイアントロボ」も空を飛んでいましたが背中にジェット噴射の装置が付いていました。

これは今考えればかなり画期的な出来事です。

1977年の「超電磁ロボコン・バトラーV」でも特に空を飛ぶ装置も装着していないにも関わらず空を飛んでいたのは「勇者ライディーン」からの影響で間違いがないと考えます。

さらに「勇者ライディーン」では無線もありませんでした。

作品開始当初はライディーンに搭乗していいる、ひびき洸と無線で交信をすることもできませんでした。その関係で登場したのが明日香麗(あすかれい)というキャラクターです。

このキャラクターはライディーンに乗っているひびき洸と交信ができる特殊能力の持ち主という設定でした。

ちなみに主人公ひびき洸には恋人がいました桜野マリというキャラクターでした。

明日香麗の登場は主人公ひびき洸と桜野マリとの三角関係を描くために登場させた面もあります。

ただ、ひびき洸と明日香麗の間には恋愛感情があるようなシーンは一切ありませんでした。この2人に一方的に桜野マリがやきもちを焼いているだけの展開でした。ちなみに同役の前半の声優は「エースをねらえ!」の岡ひろみ役で有名な高坂真琴でした。

このあたりはキャラクターをしっかりと描くためにおこなわれた演出でした。

とにかく当時のロボットアニメとしてはかなり異質な設定の作品でした。

当然ですがこの設定が作品の魅力でした。

ところが何故か途中からなし崩し的に無線で交信ができるようになります。

当然ですが明日香麗の存在理由がなくなります。同キャラは途中でいなくなります。

さらに研究所のスタッフにより人面岩の内部で修理、メンテナンスをするようになります。

今から考えればおかしな話なのですが古代文明ムートロンの科学力で造られ人面岩に格納中にムートロンの神秘的な科学力で修理、メンテナンスが行われていたのが、なし崩し的に現代の科学力で修理、メンテナンスをするようになりました。

作品の世界観をぶち壊しにするようなことを行なったのです。

これは私にとって長い間の謎でした。

今から2、3年前だったと思いますが専門チャンネルで「勇者ライディーン」が放送されました。この時の放送を見て「何故、途中で作品の路線変更を行なったのだろう?」こう考えてインターネットで調べたところ、この路線変更の理由を知ることになりました。

この当時は超能力ブームだったのです。

スプーン曲げで有名なユリ・ゲラーは皆さんご存知と思います。私も給食の時間に友達とスプーンを曲げました。

このユリ・ゲラーに代表されるように、この時代は超能力ブーム。さらにノストラダムスの大予言によるオカルトブームだったのです。

ところが放送局のNET(現テレビ朝日)はこのブームに否定的な立場でした。これは同局の親会社、朝日新聞がこのブームに否定的な姿勢をとっていたためです。

そこで「このような路線の作品はけしからん」といったクレームが制作現場に寄せらるようになります。

この関係で路線変更をしたのです。

ところが視聴者からするとこの路線変更は

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でしかありません。

ところがスポンサーからはこのような要請はありません。「何故路線変更をするの?」このような意見が制作現場に寄せられたようです。

この時、総監督を務めていた富野由悠季はテレビ局、スポンサーさらに制作現場の板挟みにあいます。

そのため本来描きたかった世界観がぶち壊しになり、結果総監督を降りることになります。

この経験が後にスポンサー、テレビ局の要請を思いっきり無視した作品「機動戦士ガンダム」に繋がったと考えます。

ただ元々の世界観が好きで見ていた視聴にとっては大迷惑な話でしかありません。

「マジンガーZ」で始まったスーパーロボット作品とは一線を画す非常に魅力的な世界観の作品だったのが、なし崩し的に「マジンガーZ」と同じ様な世界観に変更されたのです。

この関係で以前ブログで書いたプリンス・シャーキンも死んでしまうことになるのです。

後半の総監督を務めた長浜忠夫は立場の異なる矛盾する要請をうまく調整して作品を制作しなければない状況になりました。こうなると映像作品を制作しているのか、ただ単に交渉した妥協の産物を制作しているのか判らない状況になります。

ただ、この様な状況下にも関わらず主役ロボット、キャラクターの魅力が高かった関係もあり同作は高視聴率を維持します。

今から考えれば「子供向け番組に訳の分からない干渉をするな?」「娯楽作品に親会社である新聞社の思想的立場を持ち込むな?」こう言いたくなりますが、当時のテレビ局は子供向け番組にもこのような干渉をしていたのが現実です。

作品として成功をしているにも関わらず路線変更を行なった子供向けアニメ、特撮番組は「ミラーマン」と「勇者ライディーン」この2作品しかないのではないでしょうか?

「仮面ライダー響鬼」が路線変更をしているではないか。この意見があると思いますが同作の前半は現役の視聴者である児童層には人気はありませんでした。事実、玩具の売り上げが低迷した作品です。

見落としている作品があるかも知れないので、この2作品以外にも同様の例がればコメント欄で指摘してきただければ幸いです。

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